ホームページを利用した喘息患者または家族への情報支援について

TRIAL OF INFORMATION SYSTEM FOR ASTHMA PATIENT AND THEIR FAMILIES USING HOME PAGE ON INTERNET
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はじめに

 今日の自己管理を中心とした喘息治療では患者への情報提供の重要性が指摘されている。滋賀医科大学小児科アレルギー外来では、図1-aに示すホームページ(HP)を平成7年9月よりインターネット(INET)で公開し、外来通院中の患者や喘息患児の家族を対象に喘息に関する情報の提供に努めているa)。HPのコンテンツは、主に喘息の病態や治療薬剤、日常の管理、そして学術情報なども掲載している。
 HPのコンテンツの充実と適正運用を目的に、平成9年1月よりHPを閲覧した際に患者やその家族を対象として閲覧者の背景やその喘息患児の治療状況、不足している情報などについてアンケートを行っている。得られたアンケート回答より、INETを利用した喘息患児への情報支援の利用実態や今後の課題について検討を行った。

対象と方法

 当サイトにアンケートのHPを設けると共に、当サイト先頭ページをアクセスした際に毎回アンケートに回答を促すメッセージを表示し(図1-b)、HP利用者すべてに協力を求めた。
 質問内容は図2に示す32問である。HP利用者の背景、家族内の喘息患者の有無、喘息患者が受けている治療、不足している情報、充実させて欲しいホームページやINETの利用状況などを尋ねた。
 回答方法はアンケート回答ページに図3に示すプルダウン式メニューを設け、そこから該当項目を選んでもらった。入力を終えた時点で送信ボタンを押すとHPの管理者の元にそれらの回答が届き、表計算ソフトなどで解析を行った。

結果

 調査は平成9年1月より平成11年12月までの36ヶ月間行った。同期間中に先頭ページが読み込まれた回数は60545回、寄せられた回答は合計497件であった。そのうち身近に喘息患者のいない医療関係者の回答は解析から省き、対象となる回答は471件となった。

1.利用者背景(表1 HP利用者の性別では男性48.6%、女性51.0%で女性の利用がやや多く、年齢では30歳代が最も多かった(表1-a)。HPの利用は県内に止まらず全国各地からあり、特に関東からの利用が多かった。時には海外からも利用者がいた(表1-b)。職業では主婦が最多を占め、事務職、コンピューター技術者と続いた(表1-c)。HP利用者の身近な喘息患者として子どもが301件が最多で、次いで本人が133件と回答が寄せられた(表1-d)。

2.患者の背景(表2 HP利用者で本人を含め身近にいる喘息患者の性別は、男性45.6%女性33.3%で男性が多かった。年齢では、3〜6歳がピークとして1歳から小学校6年生までの小児科領域と、18歳から40歳までとした内科領域に2つの分布が見られた(表2-a)。また"かかりつけ医"を持つ患者は61.6%であった。一方、かかりつけが無いという患者も7.9%存在した(表2-b)。
 通院している医療機関は、小児科を標榜する診療所の一般外来が22.7%、病院の小児科の一般外来が22.3%とほぼ同数で、次いで病院の小児科専門外来が11.0%と続いた(表2-c)。罹病歴は長くなるほど多くなり3年以上が30.4%で最多であった(表2-d)。
 喘息の重症度は小児アレルギー学会小児喘息重症度分類1)を新たにHPで表示し、当該患者に当てはまる分類を選んでもらった。軽症と感じていているHP利用者は34.4%、中等症と感じているHP利用者は33.8%でこの2つの重症度で多数を占めた(表2-e)。入院歴はない患者が42.3%で最も多く、1〜2回の入院歴の20.6%が次いだ(表2-f)。

3.不安事項(表3 喘息患者に感じている不安で最も多かったのが治癒の時期で27.6%であった。そして薬剤の副作用14.0%、成長への影響12.5%、と続いた(表3-a)。そうした不安を医療機関の中で最も尋ねやすい者を尋ねたところ、医師が66.0%と最多を占めた(表3-b)。喘息の勉強会や講習会の参加経験を尋ねたところ未経験が63.5%であった。しかし参加を望まないHP利用者も11.9%存在した(表3-c)。喘息について何か問題に直面した場合の解決方法では、最も多くえらばれたのが「主治医に聞く」の344件であった。その次がINETの利用で227件であり、HP利用者は問題解決のために日常的な手段としてINETが用いられていた(表3-d)。

4.薬剤の知識や治療状況(表4 喘息の治療に用いられている薬剤で名称・作用・副作用の知識の有無について尋ねた。「すべて知っている」知識として薬剤の名称はが32.3%であるが、効果については16.1%となり、副作用になると7.4%と著しく減少する。特に副作用を「全く知らない」と回答するHP利用者は25.1%にもなる(表4-a)。喘息患者に用いられている治療薬では吸入薬と経口薬の併用が43.1%で最も多く、経口薬のみが23.6%と次いだ(表4-b)。超音波やコンプレッサー式の吸入器は26.3%が所有し利用していた(表4-c)。吸入器を所持している124件のうち、その利用は朝夕などの定期が29.0%、定期と発作時が30.6%、発作時のみが32.3%となった(表4-d)。

5.INET利用歴(表5 HP利用者のINET利用歴では、1〜3年が39.7%が最多であった(表5-a)。集計した1999年でINETの利用歴が3年ならばINET利用サービスが始まって間もない頃から利用されていたことになる。またINETの利用頻度も毎日が42.7%、2〜3日に一度が36.9%もいた(表5-b)。当HPへの到達方法もHPの検索サーバー(検索サービス)からが最多の48.2%であった(表5-c)。これらの利用状況を考えるとINETのかなり卓越した利用者が閲覧していたと思われる。

6.希望するコンテンツ(表6 当HPで特に役立つと思われた情報が「喘息について」の259件、「自宅での対応」189件、「診断について」172件などとなった(表6-a)。また今後充実が望まれる内容としては「自宅での対応について」が224件、「お薬や処置の詳細」が210件などとなった(表6-b)。
 また最後に設けたコメント覧には、当HPに対する叱咤激励の言葉や喘息に関する多数の質問を頂いた。その中で喘息の理解の助けになると思われる質問とHP管理者との交信は、回答者の許可を得てHPの「Q and A コーナー」で紹介した。現在受けている治療への感想や意見は、日常の外来診療において患者やその家族に病態や治療方針を説明する際に参考になることが多かった。

考案

 自己管理が重要視される今日の喘息治療では、喘息患者やその家族に病態や薬剤の正しい知識が不可欠である。外来の診療時間内に個々の患者に喘息の病態や服薬指導が行われるべきであるが、日常の外来では十分な時間をかけることが困難な場合が多い。そのために説明会などを別の時間に設け開く医療機関もある。

 しかし今回の調査では患者会や医療機関などの行われる喘息の勉強会などの参加経験のある回答者は12.0%しかいなかった。また参加したくないという回答も11.9%あった。外来受診以外に再び医療機関に出向かなくてはならない煩雑さが受講者が多くない理由の一つであろう。特に治療薬に関する知識をアンケートで尋ねると、名称は32.3%が全て知っていると回答しているのに対し、その作用、副作用となると「全く知らない」と答える患者が増えていく傾向がある。患者やその家族に十分な知識を持ってもらうために、喘息に関する学習の機会を増やす必要がある。

 今日普及がめざましいINETは、平成10年に国内利用者は1500万人を突破し、世帯普及率も1割を越えた2)。総理府が平成7年1月にまとめた「暮らしと情報通信に関する世論調査」によると、日常生活で不足している情報として「健康・医学」が25.7%の最多で選ばれていた3)。そして郵政省の「動向調査(世帯)」では自宅で利用したい情報通信新サービスとして「画面を通じて医師に健康相談したり診断を受けたりできる」が40.8%と最も高く情報通信メディアでの医療に対する利用ニーズが高いことが報告されている4)。

 平成9年の筆者の調査では実際にINETの医療情報を利用している外来患者家族は2.5%であった5)。一方INET先進国である米国では、すでに4人に一人がINETで医療情報を閲覧しているという報告があるb)。その中で子どものいる家庭ではさらに利用が多いことも指摘されている。今後国内でのインフラの整備が進めば、INETの世帯普及率はさらに高まり、健康推進や疾病対策に関する医療情報を家庭でも入手しようとする患者や家族が増えるのは確実と思われる。

 HPはイラストや写真を交えた説明文が容易に作成可能で、印刷などのコストもかからず、INETが利用可能な環境であればいつでも自由に閲覧できる。また新しい事実に基づいた内容の更新も書籍に比べ容易である。さらに一般の外来診療では説明に用いることが難しい音声や動画などのメディアも利用可能である。HPは病態を説明するに様々な手法が利用でき、喘息患者やその家族に一層理解を助けると思われる。

 またフォームと呼ばれるHPのデーター入力機能を用い、INETを利用し遠隔地の喘息患者との喘息日誌の交信も行いその有益性を認めた6)。他にも喘息患者情報の電子化7,8)や遠隔医療9)、吸入指導10)、そして情報支援11-14)など喘息患者の診療において有効利用が数多く報告され、今後INETは外来診療のあり方を大きく変える可能性さえ秘めている。

 当HPで役だったページや充実が求められた内容として、服薬や自宅での対応に関するものが多数選ばれていた。喘息患者やその家族への情報支援サイトとしては、最新の医療情報よりも日常生活で遭遇する問題や不安にわかりやすい言葉で一つの解決として記述するのがよいと考えられた。INETの利用状況をたずねると当HPを閲覧される方は、INET利用に比較的卓越された方が多いように思われる。INETには情報が豊富にある一方で、必要とされる情報がどこにあるのか探し出すのが困難である。INETの利用を始めたばかりの方でも喘息に関する情報を求めれば、たやすく適切な情報にたどり着けるようアクセスビリティーを高める工夫も今後の課題である。

 このように家庭へのINETの普及や医療情報の高まるニーズに対して、INETによる情報支援は大変有効な手段と思われる。しかし一方で、INET上の医療情報の利用を患者に勧めることに懐疑的な意見もある15) c)。INETは誰もが簡単に情報発信できることから検証が不十分な内容が公開されたり、時にアレルギー疾患患者に対して営利目的の代替療法などの情報がINETで取り交わされているのを目撃する。また正しい情報を掲載しても、当科以外に通院されている患者や家族が閲覧した場合に、安易な自己診断や治療方針の違いから主治医との信頼関係に影響を及ぼすことも、HP公開時は危惧した。

 平成11年3月に日本インターネット医療協議会がINETの医療情報を利用する患者に対してアンケート調査を行っているd)。INETの医療情報を利用し48.3%の患者が「医療機関を受診する機会を得た」「現在受けている医療がよく理解できた」と回答している。役立つ情報サイトとして「大学病院、研究機関により運営されるもの」が62.0%と最多を占める結果となっている。

 我々もアンケートでは医療機関で喘息について最も尋ねやすい職種、疑問を感じた場合の解決方法を尋ねたが、医師・主治医が最多であり、得られた情報はやはり医師の判断を仰いでいると考えた。また「Q and A コーナー」で紹介した相談のやり取りの後に、主治医の説明がよく分かるようになったと患者家族から多数の電子メールを頂いた。

 また患者や家族は発信源でその情報の有益性も見極めており、また専門の医療機関からの情報を求めているとも考えられる。正しい根拠に基づいた治療法を呈示すれば、情報利用者も自ずから紛らわしい情報には関心を示さなくなるはずである。INETで営利目的の代替療法などの情報が散見されるのは、むしろ今まで医療関係者がINET上での情報支援を怠った結果であると考えている。

 適切な情報支援は、自己診断やドクターショッピングを招くものではなく、知識不足による不安から解放され、受けている治療に理解を示し、むしろ積極的に医療を求める患者やその家族を増やすものであろう。そして次世代の情報支援を行うツールとされるINETが、怪情報の温床とならないためにも、正規の医療機関から今日の医学に基づいた医療情報の発信が急務である。


= 論文発表 =

 西藤こどもクリニック