西太平洋のポリオ根絶

2000(H12)年10月21日の朝日新聞に「西太平洋のポリオ根絶」に関する記事が掲載されていました。その一部を紹介いたします。

西太平洋のポリオ根絶 WHOが宣言へ     10月27日から京都会議

 世界保健機関(WHO)は27日から京都市で開く国際会議で、日本や中国、ベトナム、オーストラリアなど36カ国・地域を含む西太平洋地域でのポリオ(小児まひ)根絶を宣言する。1988年にWHOが地球上のポリオ根絶を計画して以来、94年のアメリカ地域に次ぐ。西太平洋地域は貧しい国や険しい山岳などが多く、根絶は困難と見られていたが、資金やワクチン配布などでの日本政府や民間団体の協力が大きな力となった。

●最後の患者

 WHOの会議は27日から4日間、国立京都国際会館で開かれる。29日にポリオ根絶認定委員会の委員長が根絶宣言書に署名する。97年にベトナムとカンボジアで計9人が発病して以来、西太平洋地域では野生ウイルスによるポリオ患者は出ていない。

●死亡事故も

 WHOは92年からラオスなど6ヶ国で、5歳未満の子どもたち全員にワクチンを飲ませる「全国一斉ワクチンデー(NID)」作戦を展開した。
 馬も通れないところがあるベトナム中部の山岳地帯。ベトナム・パスツール研究所(ホーチミン市)のフン医師は「職員はワクチンの保存ケースを背負い、山道を、半日以上かけて運びました」と話す。
 ベトナムとフィリピンでは、ワクチンを運んでいたボートが転覆、職員が死亡する事故も起きた。WHOの佐藤芳邦医師はカンボジアでこんな体験をした。「国道のわき道を運転していたら、前を横切った牛が地雷に触れ、いきなりふっとびました」
 政治状況もNIDを阻んだ。武力紛争が続いていたフィリピンでは、WHO西太平洋地域の尾身茂事務局長が双方に働きかけ、93年にポリオのための「1日停戦」を実現させた。一人っ子政策下の中国政府が「いないはず」とする第2子以降の子どもたちにもワクチンを飲ませるよう、中国当局を説得した。尾身局長は「微妙な問題でしたが、これをクリアできないと根絶できなかった。」と振り返る。

●日本の貢献

 NIDにはワクチン、人件費、ガソリン、運搬容器などの費用がかかる。WHOの報告書によると、92年から99年の費用計73億6000万のうち日本政府が35%を古拠出した。最大の支援国だ。
 京都、福井、奈良、滋賀の4府県91クラブが加盟する国際ロータリー2650地区(本部=滋賀県彦根市、6,200人)の支援も大きな力となった。同地区世界社会奉仕委員会の井田亮委員長によると、95年から5年間で計約1億5000万円を寄付。集会時の食事をおにぎりなど質素なものにするなど工夫で、資金をねん出したという。
 さらに同地区のメンバー延べ約220人が、94年のカンボジアを手始めにモンゴル、ネパール、中国などの現地に入り、ワクチン接種や受け損ねた子を探す事後調査にボランティアとして参加した。井田さんは「足が棒になりましたが、子どもの笑顔がまぶしくて。これでこの子たちがポリオにかからなくてすむんだなぁと思ったら苦労も喜びでした」と話す。

 世界ではまだインドやアフリカなどでポリオ患者が出ている。昨年末には、インド国境に近い中国の村で患者が見つかった。ウイルスの遺伝子分析で、インドからの移入例と分かったが、今後もウイルスが入り込む危険はある。尾身局長は「これからが正念場。入り込んだウイルスの感染者を素早く見つけ、周辺への対策ができるネットワークの維持が大切」と話す。

2000(H12)年10月21日 朝日新聞より


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