こどものアレルギー

アトピー性皮膚炎
気管支喘息

「うねりフェスタ2000」H12.7.30講演

守山市制30周年記念イベント


 今日はこどものアレルギーについてのお話を頼まれました。アレルギーの勉強会をしますと、たいていはアトピー性皮膚炎の勉強会に申し込みが集中するので、今日はアトピーだけに話題を絞ろうかと思っておりましたが、最近、市長さん宛に喘息方からの問い合わせも届いていると言うことを耳にしましたので、後半わずかですが、喘息の事にも触れたいと思います。

 しかしいずれにしましても、アレルギーという病気は奥が深くとても30分という時間ですべてをお話しすることはできないと思います。ご家族の方とお話をしていてアレルギーについて誤解されている事柄を中心にお話していきたいと考えています。私は講演が終わりましてもしばらくはフロアーなどにおりますので、特に喘息のお子さんでもう少しお話を聞きたいという方がおられましたら、ぜひお越し下さい。

 説明を始める前に少しお断りをしておこうと思います。  今日の説明は、当院にお越しになる方に対して行っている説明です。決して「名医に聞く」などというコーナーではありません。またなるべく大勢の方に当てはまる説明をしようと思います。これは医学的にすでに妥当性を得ている事実に基づいていると言うことでもあります。

 また一方で、病気はお一人ずつ異なるものですから、当てはまらない方もおられます。特に重症の方では当てはまらない方もおられると言うことを頭の隅に置いて聞いて下さい。私の外来にお越しになる方は、重症の方ばかりというわけではありません。どちらかというと軽い、患者さんが多いかもしれません。

 今日の説明は「最近、アトピーと言われた」「アレルギーかもしれない」と感じているお子さんについての説明と思って下さい。


 まずアトピー性皮膚炎についてお話を始めたいと思います。その定義はここに書かれてありますように「アトピー性の素因があり、良くなったり悪くなったりを繰り返す痒みのある湿疹」となっております。しかし実際にはどの医学者も納得するアトピー性皮膚炎を説明する定義というものは、本当はまだ存在していないと思って下さい。

 ただし、アトピー性皮膚炎の病気の本態については最近意見がまとまり、皮膚の炎症と水分喪失が主体をなしているだろうとなりました。皮膚の炎症については、皮膚の汚れであるとか、化学的な刺激などさまざまなものがあり、アレルギー以外にもたくさんの事柄を考えておく必要があります。

 また水分の喪失については、患者さんの多くが冬に悪化するという事実から、理解していただけると思います。

 また4ヶ月くらいのお子さんで湿疹ができると「アトピーですか?」と尋ねてこられる家族が多いのですが、どうして「アトピーかそうでないか」と尋ねられるのが不思議でなりません。お子さんの湿疹には、その年齢特有の乳児湿疹や脂漏性など、実にさまざまなものがあり、アトピー性皮膚炎はその一つにしか過ぎません。また後でお話ししますが、幼いお子さんは一目でアトピーかどうかを説明することは難しい場合もあります。

 さて次はアトピー性皮膚炎の診断や検査について説明していきます。これも、ある特定の検査で反応がでればアトピーに間違いなし、みたいに便利なものはありません。いくつかの検査を総合的に判断して行うものです。

 まず一般的によく行われているのが血液検査で、アレルギー疾患と関わりが深いとされているIgE、RASTと呼ばれるダニやホコリに対するアレルギーの反応を調べるものです。

 血液検査よりももう少し手間がかかる検査として皮膚を使ったパッチテストやスクラッチテスト、皮内テストあります。そしてさらに外来の午後からや病院で入院して行う食事のチャレンジテスト、除去テストなどがあります。

 特に血液検査は受けた方が多いと思いますが、これですべてアレルギーが分かる、みたいに誤解されているご家族が多いように思います。アレルギーというのは生き物すべてに備わっています免疫の病気です。この免疫の仕組みは最近もの凄い勢いで研究されていますが、研究が進めば進むほど複雑なシステムであることが分かってきています。

 例えばアレルギーや免疫を大きな複雑な機械、それも自動車にでも例えることにしましょう。血液検査はその一つの部品を点検したに過ぎないということです。

 車の部品と呼ぶには少し抵抗があるかもしれませんが、調子の悪いエンジンであったなら、血液検査はエンジンオイルを点検したくらいの大事さかもしれません。汚れていたりすると、やはり点検のできていない車ではないかと疑うことはできます。しかしエンジンの調子が悪いことをすべてエンジンオイルのためだと断言することはありません。ドライブインで車のエンジンオイルを点検した程度に考えてはどうでしょうか。

 つまりそれですべてエンジンの調子が把握できるわけではありませんが、しかし簡単に点検できる大切な箇所であるに違いありません。

 どんな部品に例えても構わないのですが、部品一つでエンジン全体の性能や調子をすべて言い当てたりことは難しいのです。

 血液検査にしてもらいたいという患者さんがたくさんおられますが、必要以上の期待はしてはいけません。また血液検査の結果に大変驚いて、たいへんな食事制限や環境整備をされている方を時に見受けますが、本当に必要なことなのかどうかをよく見極めて血液検査の結果だけで振り回されたりしないようにお願いします。

 次にアトピー性皮膚炎の治療についてお話ししていきたいと思います。これはもう皆さんが実践されていると思いますが、要点を説明していきます。

 それは、塗り薬や飲み薬は必要以上に怖がらない。皮膚の手当はぬかりなく十分に。環境整備は効果的に。食事療法は勝手にしない。ということです。

 これから個別に要点を説明していきます。

 まず塗り薬で、副作用もあると言われているステロイド薬ですが、しかし今日ではこれを上手く使って湿疹を治していくのが一番よいとされています。必要以上に恐れて不十分な手当を続けている患者さんがいま問題になっています。ステロイド以外ではステロイドの含まれていない抗炎症剤や、乾燥がアトピー性皮膚炎の主体と申しましたが、そのために保湿剤などを使う場合もあります。

 内服薬では、実際には痒みを抑える働きのある抗ヒスタミン剤をお子さんではよく処方します。また抗アレルギー薬などと言われていますが、その働きから本当にアレルギーを抑えていると言って良いのかどうか疑問もありますし、また名前がよすぎて期待しすぎるところもありますので、私は最近そういった名称で説明することを避けています。

 しかし時には重症で外用薬では治らない場合に、お子さんでもステロイド剤を内服されている場合があると思います。その場合は処方されている医師の指示に従い、また不安なことがあればその医師に尋ねるようにして下さい。

 ステロイド剤はその正しい使い方についての知識が患者さんに普及する前に、副作用の事だけが先行してしまった事が大きな問題となっております。副作用が現れるといけないのでなるべく軽症のうちは使わないなどと言うことはありません。痒みを止めないと、掻いて湿疹を悪化させる、そして湿疹が広がる、そしてまたかゆい場所が広がる、といった悪循環を繰り返します。その悪循環を止めるために初期から積極的に治療をしていかなくてはなりません。

 特に外来にお越しになる患者さんで「何度ステロイド剤を塗ってもすぐに悪化する、治らない」おっしゃるお子さんの家族がお越しになります。そういう場合は定期的に受診していただいてどういうふうに塗っておられるのか尋ねてみることがあります。

 そうしますと痒みが少し治まると、なるべく早く止めようとされていることが多くあります。必要以上にたくさん長く使い続けることは、もちろん反対ですが、しかしそれにしても軟膏の使用期間が短すぎることがあります。このグラフは私がいつも感じていることを図式化したものですが、痒みは少し治まるところまで軟膏を塗り続けられても、皮膚の炎症が治まるところまで手当していない。そしてすぐに痒みがもどってきてしまう、こうした悪循環を繰り返しを続けておられる方が多いのではないかと思っています。

 実際は、もう普通なら軟膏を塗るのを止めるところを、もう少しきっちり治るまで、皮膚の本当の炎症が治まるまで塗り続けてもらえば、痒みはしっかりと治まり、それ程頻繁に痒みで困ることは無いと思っています。

 こうした自覚症状を中心とした手当や治療では、アレルギー疾患はなかなか治っていかない、それはあとで少し説明しますが、喘息で同じ事が言われています。アレルギー疾患を直していく上での共通する現象だと私個人的に思っています。

 さて次は、塗り薬は必要以上に怖がらずに十分に塗ることが大事だということは理解していただけたと思いますが、それだけではまだ足りません。次は日常の皮膚の手当のことです。

 外来にお越しになる患者さんでいつも尋ねていることは、お風呂でキチンと体を洗っているかと言うことです。アトピーだけではなく赤ちゃんの湿疹でもそうですが、一番ひどくなるのは、よだれの溜まる顎の下、そして汗の溜まる肘の内側や首周りです。こうしたところをキッチリと洗うだけでも湿疹はずいぶんとよくなります。

 しかし患者さんに尋ねてみますと、たいていはアトピー性皮膚炎専用の石けんを使っておられたり、肌の弱い人用、赤ちゃん用などを使って、そして時には刺激の無いようにとガーゼで洗っている、さらには手で少し擦るだけという方もおられます。これでは決してよくなりません。先に申しましたとおり体の汚れも湿疹の悪化要因です。

 アトピー用の石けんや、肌の弱い人用、赤ちゃん用といわれるものは洗浄力が低くて、体の汚れを十分に落としていない可能性があります。冬に乾燥して痒みがひどくなる方の場合は、そういった石けんが効果を現すことがありますが、汗をいっぱいかく夏にはほとんど必要がないと思います。

 そして洗い方ですが、ある程度強く擦らないと汚れは落ちません。そこを強調すると今度は皮膚を痛めるくらいきつく擦ってくる人がいたので、どう説明したらよいのだろうかと考えていたのですが、最近ちょうど「脇の下を洗うくらい」と説明する事にしました。どの程度の強さで洗うか、そして汚れているか、人それぞれですが、それがちょうどよいようです。湿疹を起こしている場所は、それくらい汚れているのだと思って下さればちょうどよいでしょう。

 それからここ一月の間に急に湿疹がひどくなるお子さんも増えました。とびひの合併も多いですが、それよりも今年は急に暑くなった関係で日焼けによる湿疹の悪化が多いように思います。日に焼けている肌は健康そうに見えますが、日焼けそのものは「百害あって一利無し」と思って下さい。将来は運動会も晴れた日を避けるようになるとも言われているくらいなのです。

 それと夏ですから、付け加えたいことですが、塩素のたくさん含まれたプールの水を洗うために、十分にシャワーを浴びてから出てきて欲しいのです。塩素のたくさん含まれたプールの水がそのままになっていると、皮膚の乾燥を招くといった意見もあります。  そして先ほども説明しましたが、アトピー性皮膚炎は、痒いからかく、そして湿疹が広がる、そしてまた痒い場所が広がるといった悪循環を繰り返す病気ですから、湿疹をかき壊さないように爪は必ず短くして下さい。

 次は環境整備の事です。環境整備といいますと、手に触れている物から空気まで実にさまざまな物が対象となります。アレルギー疾患が環境整備の情報や環境整備グッズは実にたくさんあります。そのために、部屋にあるもの、すべてに環境整備を施そうとされている方がいますが、それではキリがありません。

 結論から言いますと寝具の整備が最も大事です、それ以外は後回しにしても構いません。その理由は、1日のうちで最も体に長い間、体に密着していますし、アレルギーの原因となっているダニも増えやすい場所だからです。床の絨毯をやめて高いお金をかけてフロアーリングにしても、一つのところに滞在する時間はしれています。カーテンやソファーそしてぬいぐるみだって同じです。そういったところから環境整備をされていると大変効率が悪いです。

 そして寝具の清掃ですが、寝具をキレイにして下さいと説明するとたいていの方は干すことをイメージされると思います。寝具を乾燥させることはよいことですし否定しませんが、アレルギーの原因となるダニを減らすにしては効率が悪すぎます。ダニを減らすには掃除機で吸い取ることです。

 そしてその吸い取り方ですが、だいたい片面に1分、そして毎日両面を吸って下さい。それを2週間続けるとダニの抗原量は10分の1以下になると言われています。そして掃除に使う掃除機は普通の物で構いません。後で触れますがアトピー性皮膚炎の患者さん目当てに高価な掃除機を購入させようとする業者がいます。そして防ダニシーツと言われる物もありますが、それを使ってみるのも一つの方法かもしれません。ただし、防ダニ高価をうたった製品には、その性能はピンからキリまでありまして、投資したお金の分だけ高価があるかどうかはわかりません。そこがアレルギー患者さんのための用品で難しいところです。

 そして最近ペットを飼われる方が多いようです。ネコが最もアレルギーが強いことが知られています。また最近はハムスターを飼われる方も増えて、これも問題になってきています。

 それから補足ですが、アレルギーの原因となっているダニ(コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニなどのチリダニ)は人を刺すことがありません。人を刺すのはツメダニといわれる種類で、これはアレルギーの原因にはなっていません。

 アトピー性皮膚炎と食事も悩ましい関係です。アトピー性皮膚炎と食事は関係が深いという意見と全く関係がないという意見の二つがあります。そして問題になっているのは、医師からの指示もなしに、何となく卵などの食品を外しているというケースです。

 離乳食が始まったときに口の周りや顔に湿疹ができると、家族の方は大騒ぎになります。外来に来ていきなり「アトピーですか?」と尋ねられます。赤ちゃんの食べ残しでいいですから、顔に半日付けてみて下さい。その赤ちゃんと同じような湿疹ができるはずです。

 顔や口の周りによく赤い小さな発疹ができることがありますが、それは蕁麻疹か接触性皮膚炎に似た反応で、アトピー性皮膚炎とは似ていないことが多いようです。

 そして安易に始めた食事制限をいつまでも続けておられる家族もいますが、それでもだいたい2〜3歳以降は、ほとんどのお子さんで必要がないことの様です。

 医師や医療機関に行く以外に、アトピー性皮膚炎やその他のアレルギー疾患が治せるといううたい文句で、実はたくさんの商品やまた治療法が紹介されています。

 時には医師や医療関係者の中でも、自らが考案した特殊な治療法を患者がたくさん集まると思って患者さんに施している者がいます。これは大変残念で恥ずかしいことだと思います。

 とにかくそうした患者さんの健康よりも自分の収益が主な目的で商品を販売したり特殊な治療法を紹介する「アトピービジネス」が大変横行しています。そのほとんどの手口が、現在受けている治療よりも効果的で副作用の少ない方法があると言って忍び寄ってこられます。そして必要以上にステロイド剤の副作用の不安をあおり、自分の商品や治療法の有効性が高いことを説明します。

 その手口につかまった方は、もちろん続けてきたステロイド剤を突然中止するのですから、症状が悪化します。そうした業者は「体から毒が出るまでは一端悪くなるが必ずよくなる」と説明して続けさせようとします。またそれをリバウンド現象と説明したりしますが、それは単に手当が不適切になっただけで、もちろん違います。

 広告の表現には決してだまされないで下さい。最近、アトピー性皮膚炎で白内障を合併する方が増えている事が知られています。そのほとんどが、そうした根拠のない治療を続けてこられています。皮膚の炎症を放置された結果白内障が起こるのだろうと説明されていますが、白内障を合併する方が増えていると言うことは、いま説明した不適切な民間療法をされている方が増えているという証拠だろうと言われています。

 いろいろなアトピー性皮膚炎の治療を紹介したチラシなどを見かけると思いますが、それを試す前に必ずかかりつけの医師に本当に効果があるのかどうどうかを尋ねてみて下さい。

 そして次は医師や医療機関とのつきあいです。そうした医療民間療法に走る人がいる責任は実は医療機関にもあります。ただ患者さんにも少しの辛抱がどうしても必要です。患者さんばかりせめて悪いのですが、長い間に起こっている身体の変化は一目で説明することは難しいのです。ですからどうしてもしばらく通院していただいて様子を観察する必要があります。その間に効果が現れないからといって病院を変えてしまったり、他によい治療法があると聞いて医療機関を変えたりはしないで下さい。

 そして新聞や雑誌、そして周りの皆さんが親切に、お薬を長く使っていると体が悪くなるなどと教えてくれることは度々あると思うのです。そういった不安があれば、やはりかかりつけの先生に必ず尋ねて下さい。

 どんなお薬であれ、全く副作用のないお薬はないと思います。副作用はあってもそのデメリットや発生する頻度が小さくてメリットが上回ると判断したからお薬を出していだしているのです。今日ここまでお越しになるのに皆さんは車を使ってこられていると思います。交通事故やガソリンの代金などを考えても車で来ることが便利でよいと思ったから車を使われていると思います。お薬も同じです。交通事故のことや大気汚染だけを強調されたら、安心して運転などできません。

 そしてアレルギー疾患は本当に治るまでに時間がかかるものです。その間患者さんやその家族だけでがんばり続けることは本当に大変です。

 例えば学校で湿疹のひどい子どもで、病気がうつると言って仲間はずれにされたという話をまれに聞きます。もちろんアトピー性皮膚炎やアレルギー疾患は他人に病気をうつしたりはしません、誤解です。そういった誤解が学校や子供たちの間に広がっていないでしょうか。

 本当は1日3回のお薬が必要なお子さんも、学校で好奇の目にさらされるのがいやでお薬の内服や塗り薬を付けるのを嫌がるお子さんも大勢います。保育園でも医薬品の取り扱いの責任の問題で、お薬を預かったり飲ませたりすることを拒んでおられる場合がよくあります。お子さんにとって本当は何がよいのか包括的な目で物事を見る目が失われていると思うことがよくあります。

 アレルギーで特定の食品をどうしても除去しておかなくてはならないお子さんというのは、それ程多いことはないと思いますが、しかし実際におられます。そういうお子さんが偏食を無くすための指導で無理にソバを食べさせられてショックで亡くなったという痛ましい事件も起きております。除去食の必要性やその意味について周りにいる人たちにも十分理解してもらわなければ、患者さんやその家族だけで病気から身を守りきれないことはたくさんあるのです。その事を理解しておいて下さい。


 さて次は喘息についてテーマを変えます。喘息も話しておかなくればならないことがたくさんあります。とても30分の中で話が出来ると思いませんが、重要なポイントや誤解が多いところだけ説明していきます。

 アトピー性皮膚炎でも強調しましたが、喘息もアレルギーだけが原因ではありません。天候やストレス、花火などの化学物質の刺激などさまざまな要因が重なって起こります。

 最近特に注目されているのは、喘息が気管支の炎症が中心となっている説です。何かのきっかけで喘息が気道の炎症が始まり、それが喘息をお越し、さらに炎症が広がる、アトピー性皮膚炎のところで説明しましたが、やはり喘息も悪循環を繰り返し治りにくくなると説明されるようになってきました。

 そのために病気の軽い段階でも積極的に治療を行うのが喘息で苦しまない、長引かせないコツであるとされています。決してお薬に頼るといけない、精神や根性で治る病気ではありません、合理的な治療法を選んで下さい我慢させてはいけません。

 そして特に間違えておられることが、体を鍛えると喘息が治ると信じ切っている方が多いことです。水泳が喘息によいと聞いてスイミングに通わせている方も多いと思いますが、水泳そのもの喘息を治す力はあるのかどうか分かりません。喘息のお子さんに水泳をさせるメリットは持久力を効果的に高めるためによいとされただけで、喘息そのものを直す力については何も根拠がありません。

 それよりも日常的にお薬を使って喘息をきちっと管理し、お子さんに好きなスポーツを選ばせることが大事です。

 次に喘息の治療についてです。これもアトピー性皮膚炎と似ていますが、悪くなってから手当をし始めるのではなくて、軽いウチから積極的に治療を始めることが、一番よいとされるようになってきました。この事を「早期介入」といいます。

 一番悪いのはカラータイマーが鳴り出してから、必殺技で倒す。「ウルトラマンタイプ」の戦い方です。始めからよいお薬をどんどん使っていくのが、今日の喘息の治し方です。

 治療薬には大きく分けると2種類に分けられます。一つは、先ほど申しましたように喘息は気管支の炎症が病気の正体だと言うことが分かってきましたので、それを治すための抗アレルギー剤や吸入ステロイド剤です。これは無症状でも長く続けなくてはなりません。

 もう一つがそれでもコントロールができなくて、喘息発作が出てしまったときの治療薬です。これは本当に苦しくなって我慢できなくなるまで我慢する必要もありません。ただし、安易に使ったり依存することは大変危ない使い方なので注意してください。

 治療薬に2種類あると言うことがなかなか理解にしにくい方もおられます。それで、喘息を虫歯に例えると、予防薬は歯ブラシに、そして発作を止めるお薬は痛み止めに例えています。

 虫歯に立ち向かうためには、痛み止めよりも毎日歯を磨くことが大切なことは誰でもすぐに分かってもらえると思います。苦しくないので予防薬を止めてしまう患者さんは大勢おられます。そして喘息発作が起きて苦しくなってから外来にお越しになります。

 「なぜ予防薬を止めたのですか」と尋ねると「喘息が起きなかったから」とお答えになります。では「歯が痛くなかったら歯磨きはしないのですか?」と尋ねるようにしています。これで分かっていただけると思いますが、歯が痛くなくても毎日歯を磨くように、喘息本態を治すお薬も続けなくては意味がありません。逆に喘息発作を止めるお薬も苦しいときはためらう必要はありませんが、そればかりに頼ることは危険です。歯の手入れをしないで毎日痛み止めを飲んでいることと同じになるのです。

 もう一つ大事なことは、喘息の治療には内服薬よりも次第に吸入薬が中心となってきています。まれに吸入薬がキツイお薬だと思っておられる方もいますが、喘息を起こす気管支に直接お薬が到達するので、わずかな量で最大限の効果が得られ全身に対する影響というのは、基本的に少ないのです。

 問題は、先ほど痛み止めで例えましたが、発作を止める吸入薬の乱用や依存です。これだけは注意しなくてはいけません。そうした使い方は、自動車を公道で時速200kmで走らせるようなものです。それをみて車は危険だといわれればそれまでですが、問題は車の安全性ではなくて、そのドライバーです。200kmで走って安全な車はありません。お薬も乱用されては安全が保てない、そのこと簡単に理解していただけると思います。

 いままで述べてきましたように治療をもし続けていただけたらなら、この青いサークルの様に症状が変化するはずです。喘息発作を予防する治療を続ければ、気管支の炎症は次第に治まっていきます。そして気管支の過敏性(つまりわずかな刺激で必要以上に反応してしまう性質)は治まります。そんな時にアレルギーや化学物質の刺激が加わっても、以前よりも喘息は起きにくくなっています。喘息発作を起こさないように管理すればどんどん気管支の炎症は落ち着いていきます。

 それと反対にいつまでも喘息が治らない患者さんは、赤いサークルの様に症状が出ているはずです。喘息発作がでて気管支に炎症が起こる、そして気道は敏感になる、そして軽い刺激でも喘息発作が起きてしまう、この繰り返しです。

 アトピー性皮膚炎のところでも説明しましたが、アレルギー疾患がなかなか治らなくなる理由の一つがこうした悪循環に陥ることです。副作用を恐れて少ない目にお薬を使ったり、効果の乏しい治療を選んだりして手当が遅れると、どんどん治りにくくなる性質があるのです。

 逆に積極的にどんどん手当をしていけば、何も困ることのない日常生活を過ごせるものです。

 いままで症状がなくてもお薬を続けると説明してきましたが、では何を目安に喘息を管理していけばいいのでしょうか。最近それはピークフローメーターという簡単な肺機能を測定する器械が発売されるようになりました。これに思いっきり息を吹き込んでその最大の速度が、実は気管支の炎症の状態と比例している事が分かったからです。

 これで毎日朝夕に測定してみると、喘息の方は日内変動が大きかったり天候が崩れるときなど、自覚症状はなくてもだんだん下がってきている事を観察することがあります。

 つまり自覚症状はなくても気管支の状態は絶え間なく変化している事が分かります。そうした変動が何年もなくなるまで、実はお薬を続けなくてはいけないものなのです。

 またそうしたピークフローメーターの数値の変化や症状、服薬内容を「喘息日誌」として記録しておくと、自分の喘息が客観的に把握できるようになります。

 もう一つ最期に付け加えたいことですが、喘息は大きくなったら治ると思って十分な手当をしていないお子さんもおられます。それはコンパスもなく大西洋を横断する様なもので本当に新大陸を発見できるかどうか分かりません。運良く風に乗れればいいのですが、そんな保証はどこにもありません。ピークフローメーターをコンパスにして進路を決めていかなくてはならないのです。そして喘息日誌が航海日誌です。


 あと2枚スライドがあります。これは今日の講演のおまけです。

 ちょっと下火になってきたかもしれませんが、今年は手足口病が大流行した年でした。その原因ウイルスは今年はエンテロウイルス71とコクサッキーA16などです。症状はご存じだと思いますが、混乱を招いている事は、その感染力です。

 特別な名前が付いているので、麻疹やオタフクカゼと同じようにみなされてしまいますが、実は単に特徴のある一種の風邪だと思ってもらえばよいです。ですから何度でもかかることがあります。また感染症といっても感染する強さが病気によって異なると言うことも知っておいて下さい。学校を休まなくてはならない麻疹や水疱瘡などに比べると感染力はそれ程強くありません。普通の風邪と同じです。

 だから学校は熱もなくて食欲もあれば投稿ができます。問題は保育園です。保育園には休まなくてはいけない病気という決まりはありません。一般には学校の決まりに従っているのですが、手足口病も先ほどはなしたように、特別に名前が付いているので、麻疹や水疱瘡と同じ扱いを受けて休まされることが多いようです。

 私も始めは感染力が対して強くないので保育園に預けていよいと説明していたのですが、今年ほど流行してきますと、そう言い続けていたのではどこの保育園とも摩擦が大きくなってきまして、もう今年は休んでもらうようにしています。

 学校伝染病でないことを理由に無理に保育園に連れて行かれる家族の方もおられるかもしれませんが、どうか保育園の保母さん、園長先生と摩擦が生じないようにして下さい。


 さて最期のスライドです。もしかすると今日一番大事な話かもしれません。

 全国80程度の小児科の先生有志でそれぞれの地区の予防接種がどれくらい受けているかを昨年調査しました。何と守山市が下から3位でした。ちなみに下から1位滋賀県内の町でした(名誉のために名前は申せません)。

 これは大変なことだと思います。守山市は推奨になっている予防接種はすべて無料になっているにもかかわらずです。有料の地区にさえも負けています。滋賀県は幸い若い人口が多い県です、この予防接種の受ける人の少なさを放置して置くわけにはいかないと思います。

 予防接種は自分が病気にならないためという考え方が強いと思いますが、実は他人に病気をうつさないためでもあるのです。原っぱの真ん中で済んでいるわけでもないので、お子さんが一人水疱瘡にでもかかれば、絶対に一人では済まないものです。

 ですから「私のこどもは罹らせておきます」ではいけないのです。あなたのお子さんはたまたま合併症もなくやり過ごせたかもしれませんが、知らないところで合併症や後遺症に悩んでいるお子さんはたくさんいるのです。それを知っておいて欲しいのです。

 予防接種は以前はすべて集団で行っておりましたが、最近は個別にかかりつけの医療機関などで受けることになりました。集団で意味も十分理解しないで、何となくみんなと一緒でないといけない、みたいに受けるのではなく、予防接種の意味を理解して自ら受けるようになったことは、よいことだと思います。それだけに病気が流行するかどうかは皆さんの自覚にかかっているのです。その事をよく覚えておいて下さい。

 予防接種がまだすべて終わっていない方は、いまからでもかかりつけの先生にどの様にすればいいのか尋ねてください。予防接種の受け方は難しいと思います、でも分からないからといって放置しておくことはもっといけないことです。


学会発表
 西藤こどもクリニック