特別講演2

異文化理解への道 −南太平洋サモアのフィールドワークから−

○ 杉本尚次
大阪人間科学大学教授,国立民族学博物館名誉教授

 地理学や文化人類学(民族学)は野外科学的性格が強く、フィールドワーク(野外調査、実地調査)を基礎にした具体的な実証研究が特色となっている。

 今回は私が1965年以来フィールドワークを続けている南太平洋ポリネシアのサモアを事例に30数年にわたる地域文化(島文化)の変化過程と伝統文化の再認識などについて考える。

 サモアはウポル島とサバイイ島の2大島と数個の小島からなる火山島で、面積は東京都の約1.4倍に当る。年平均気温26〜7℃、年降水量は3000ミリに近く、1年の大半は南東貿易風が吹く熱帯海洋性気候である。

 人口は16万人余のミニ国家。近年は海外への人口流出が多く、6万人をこえるサモア人がニュージーランド、米領サモアなどへ出稼ぎあるいは移住している。「南海の楽園」というイメージは欧米人が創りあげたものであり、現実の生活は厳しいものがある。

 サモアは欧米文化との接触、キリスト教化、植民地支配(ドイツ→ニュージーランド)時代、そして独立(1962年)以降の変化など海のかなたの世界から押し寄せる外来文化の影響をうけてきた。

 私がサモアで最初のフィールドワークを行ったのは独立まもない1965年。初調査からすっかり南太平洋の自然と人間のすばらしさに魅せられてしまった。以後7回にわたって行ったサンプルとして選んだ2つの村の暮らしの変化をスライドを中心に解説する。 [スライド主要項目](サモアの自然〜サンゴ礁と火山島。キリスト教とサモアの伝統と慣習に基礎をおく国家。首都アピアへの1極集中。2つの村〜村人と共に。村入りのカバの儀式。地図をつくる〜村の景観変化〜。家族調査〜村人全員の名前をおぼえよう。失われゆく伝統民家。食事文化とその変化。2つの村の首長(マタイ)になる。マタイ制度の変化。海外への出稼ぎや移住〜心はふる里へ〜。せちがらいことが増えた〜紛争処理をめぐって〜。テレ・イア・オレ・サミ(海には魚がいっぱい)。伝統文化再認識の動きなど)。

 フィールドワークでは、調査する者とされる者との共通の場をつくりだすこと、対話の場をつくりあげることが重要である。フィールドワークによって異文化理解が100%できるとはいえないが、「判らない部分を少なくする努力」を続けなければならないであろう。


トップページ前のページ | ページ先頭

[第19回日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会]
大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科