特別講演1

アレルギー疾患の増加要因

〇白川 太郎・程  雷
京都大学大学院医学研究科健康要因学講座健康増進・行動学分野

 戦後50年間に先進諸国ではアレルギー疾患の数は10倍以上に達し、開発途上国においても増加が報告されるようになってきた。アレルギー疾患は数多くの遺伝子と環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられているが、このような短期間における遺伝子変異の増加の可能性は考えられず、環境要因の変化によると考えられる。

 1. アレルゲンの増加

日本では、1980年代にスギ花粉の全国的な増加が指摘されている。樹齢30年を超えし、花粉を飛散させやすくなったスギの植林面積の増加が、その原因と思われる。最近は、スギ花粉は著しい年次変動を繰り返しながら増加し、ヒノキ科花粉も増加傾向にある。一方、戦後の家屋構造の変化、密閉型住宅の普及により室内塵中のチリダニ増殖をもたらし、アレルギー疾患の主なアレルゲンとしてのヒョウヒダニも増えているものと推測される。

 2. 感染症の減少

アレルギー疾患は先進国における増加要因の一つとしては、細菌や寄生虫感染症の減少との相関であると推測される。結核感染の減少や過剰な抗菌指向が生体のTh1反応性を低下させ、Th1/Th2バランスがTh2側に優位に傾いていることによってアレルギー疾患が増加してきた。一方蠕虫感染は、強力にTh2反応を誘導によって非特異的IgE抗体が産生され、それがアレルギー疾患の発症を抑制してきたとの仮説がある。しかし、ある地域の調査によれば、蠕虫感染はアレルギー症状あるいはアレルゲン皮膚反応を抑えるという事実が確認できない。

3. 大気汚染の増加

気道アレルギーの増加は化石燃料排気ガスや粒子状物質の増加と関連があることが示されてきた。都市部における大気中微少粒子の多くは、ディーゼル排出粒子(DEP)である。DEPはそれ自体で炎症を引き起こすばかりでなく、IgE抗体産生を促進し、アレルギー疾患の発症と増悪になんらかの役割を果たしている可能性がある。ところが大気の汚染度が高い旧東ドイツでは、汚染度の低い旧西ドイツより、アレルギー疾患の頻度が低いという報告もある。その原因としては、おそらく食生活を含めたライフスタイルなどの違いもなんらかの影響を及ぼしている可能性がある。

4. 食生活の変貌

 戦後、日本における食生活の欧米化に伴い脂質の摂取量も増加し、その内容にも変化がみられる。n-6系多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるリノール酸はアレルギー炎症を引き起こすロイコトリエンなどの合成材料となる。一方、DHAやEPAなどn-3系PUFAには抗アレルギー炎症作用が知られている。近年n-6/n-3摂取量の比は上昇しており、すなわちPUFAの偏りはアレルギー疾患の増加を助長する要因の一つとして挙げられている。


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[第19回日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会]
大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科