会長講演

私が学んだ喘息治療 −気管支喘息炎症論について−

土居 悟
大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科

 気管支喘息の病態は、1980年代後半には、好酸球や活性化T細胞が関与する気道粘膜の炎症として捉えられてきていた。1990年代に入り、軽度の喘息症状のある患者の気道粘膜細胞において、IL-5 mRNAの過剰発現がin situ ハイブリダイゼーション法によって認められた。IL-5が好酸球の活性化を引き起こし、その結果気道の過敏性を増悪させていることを示唆する結果であった。この報告を嚆矢としてサイトカイン、ケモカインに関する多くの研究結果が矢継ぎ早に発表され、小児科領域でも、肺胞洗浄液の検討やわれわれの末梢血を用いた検討で上記の考えを支持する知見が得られた。これらのことから、小児科領域でも病態の基礎に気道粘膜の炎症があることが、1999年に発表された米国の小児喘息ガイドラインでも明記されるようになった( http://www.aaaai.org/ )。

 気管支喘息の病態を気道粘膜の炎症と考えるならば、治療の基本は炎症を抑えることである。治療の究極の目的は治癒ではあるが、当面の現実的な目標は喘息のコントロールである。すなわち喘息発作がおこらないことのみならず、日常生活が普通にできることが目標であるので、治療は目に見える症状としての発作を予防することのみならず、ピークフローが安定すること、すなわち、炎症に対する治療をきっちりすることが重要である。

 治療とは、抗原除去指導から、鍛錬、心理治療も視野に入れた中で薬物的な抗炎症治療も熟慮することを意味する。薬物治療、鍛錬指導、心理治療は当然のことながら有機的に関連するので、薬物治療に大きな変化があれば、鍛錬指導、心理治療にも変化を与えるであろう。日常的な診療においても、薬物治療後に運動誘発性の気道収縮がおこりにくくなり、運動にも積極的に参加できるようにようになった症例や、またいつ発作が起きるだろうかという精神的不安感が薬物治療後に軽減され心理的にも安定した症例も経験する。

 その一方で、繰り返しおこなった服薬指導にもかかわらず患児が予防的薬物治療をしばしば中断し、その背景として家庭などの患児をサポートする場に問題を認めた症例など、社会的な弱者に対する福祉などの問題点はますます先鋭化して、その対応に苦慮するようにもなった。

 医療、教育にとどまらず、こどもにかかわる学問領域との広範囲なネットワークの中で、気管支喘息がコントロールできるための患者支援を考えていきたい。


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[第19回日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会]
大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科